データ移行はなぜ失敗するのか!? データ移行失敗のリスクと成功に導く4つのポイントを解説

前回の記事では、SAPのデータ移行の概要として移行データの種類とデータ移行の流れについて解説しました。

本記事では、SAPのデータ移行が困難である3つの理由、データ移行に失敗するとどうなるか、そして、データ移行を成功に導く4つのポイントについて解説していきます。

目次

SAPのデータ移行が困難な3つの理由

データ移行は数あるタスクの中でも強いプレッシャーがあり、最も神経を使う作業の一つです。
本章では、そのデータ移行がなぜ困難なのか、3つの理由について解説していきます。

①作業の正確性が求められる

正確性が求められるのは、データ移行に限らず、要件定義でも開発でもテストでも同じですが、移行作業は「正確に終わったか」が誰の目にも明らかになるという点でよりシビアと言えます。
移行は他のフェーズのタスクと異なり、ごまかしが効きません。

例えば、GL勘定残の移行であれば、移行元と移行先(SAP)の残高はぴったり一致しなければなりません。
監査的な観点からも問題視されないように、こういう不一致が起こると移行チームは原因の追求に追われます。
異なるシステム間で値を一致させる、または不一致なら不一致になる合理的な理由(例えば、小数点の丸め誤差、現行システムでは切り上げ、SAPでは四捨五入)を追求するというのは相当困難なタスクです。

②新旧システムの両方を把握・習熟しなければならない

移行タスクのうち、最も重要かつ時間のかかる作業がマッピングです。
このマッピングを間違うと、後続でどんなに正確に作業できたとしても意味がありません。

例えば、普段私達が携帯電話を乗り換える時にそれほど苦労することなく連絡先を移行できるのは、連絡先というデータ構造がどの機種でも大きく変わらないためです。
ですが、SAPのデータ移行では移行元と移行先(SAP)でデータ構造が大きく異なることが多いため、前記事で解説したマッピングの処理が必要となります。
SAPのどのマスタ/トランザクションデータのどの項目を、どの現行システムのどの項目からマッピングするか、地道に1つずつ定義していかなければなりません。
こうしたマッピング作業を行うためには、現行システムだけでなく、新システム(SAP)の項目の意味や役割も熟知する必要があります。

また、SAP導入の動機が「分散していた各システムを統合したい」という場合、現行システムが複数に分散しています。
そうすると、例えば品目マスタ1つとっても、”商品”は受注管理システムから、”原材料”は生産管理システムから移行するといった具合になります。
さらに、同じ品目マスタのある部分はAシステムから、ある部分はBシステムからマッピングするというケースもあります。
このように、移行担当者は複数の現行システムおよび新システム(SAP)の項目の意味と役割を理解しなければならないため、マッピングは非常に大変な作業となります。

③限られた期間のうちに移行を完了する必要がある

本番移行は月末月初、長期休暇がある4月末(GW)、12月末(年末年始)に実施することが多いです。

例えば、年末年始の12/30~1/3の5日間で本番移行を実施したとします。
この5日間で移行を完遂できなかった場合、1/4の営業日にシステムが使えない状態となり、顧客の業務が開始できません。
テストやトレーニングと異なり、本番移行は一発勝負で、失敗すると即本番稼働延期となります。
本番移行は移行リハーサルと全く同じ条件ということは滅多にないため、想定外の問題が発生するリスクがあります。
また、失敗すると即本番稼働延期という強いプレッシャーの中、移行を完遂しなければなりません。

データ移行に失敗するとどうなるか

本章では、データ移行に失敗したするとどうなるのか、本番稼働前後のケースに分けて解説していきます。

①問題が本番稼働前に判明したケース(本番稼働が延期したケース)

一番の大きな問題は、プロジェクト費用を誰が負担するかということです。
当然ですが、本番稼働が延期になった分の工数は顧客かベンダーのどちらかが負担することになります。
顧客負担となるかベンダーの持ち出しとなるかは契約内容や延期になった原因によります。
仮にベンダーが50人体制のプロジェクトで本番稼働が2ヶ月遅延した場合、SAPコンサルタントの月単価が150万円だとすると、1.5億円もの追加コストが発生することになります。
顧客側の工数も同時に発生するため、その金額は途方もない金額となります。

また、本番稼働が延期した場合には、まず顧客がステークホルダーと行った業務調整(発注残を減らす、在庫を多めに持っておくなど)が無に帰します。
次の本番移行に向けて、顧客が仕入先や生産拠点ともう一度業務調整して頂く必要があるため、顧客ビジネスに少なからず影響を与えます。

②問題が本番稼働後に判明したケース(問題を抱えたまま本番稼働するケース)

これはデータ移行が完了し、本番稼働後に問題が判明したケースです。
例えば、顧客の業務で使うマスタや項目の移行に失敗していた場合、本番稼働後のリカバリ対応に追われることになります。

「あ、このマスタ移行してなかった」という場合には、本番稼働後にあわてて取り込むことになりますし、「取り込んだマスタのここの項目の値が全部間違っている」という場合には、何らかの手段で一括アップデートしなければなりません。

リカバリが完了するまで、当然顧客は納期通りに出荷できないなど通常通りの業務ができなくなります。
必然的に顧客側の業務ユーザもベンダー側のSAPコンサルタントも高稼働を強いられることになります。

また、例えばGL勘定残の値を正しく移行できなかった場合、そのリカバリのために決算発表が延期することもありえます。
実際に、移行データにおける引当金の計上が正しくなかったことが原因で、そうなった事例があります。

データ移行を成功に導く4つのポイント

本章では、データ移行を成功に導く4つのポイントについて、前回の記事のデータ移行の流れに沿って解説していきます。

①移行対象を漏れなく洗い出す(手戻りの削減)

①ビジネスプロセスの理解のプロセスで気をつけるポイントとなります。

プロジェクトでは本番稼働直前で必要な移行オブジェクトが漏れていたということが往々にしてあります。
移行リハーサルなど後続のプロセスで移行対象の漏れが判明した場合、そこから移行方法の検討、マッピング、移行ツールの開発などを開始することになり、大きな手戻りが発生します。
これを防ぐため、最初のプロセスで移行データの要件定義をしっかりと行い、移行対象を漏れなく正確に洗い出します。

②すべてのデータパターンを試験投入する(本番移行時のエラーの削減)

④試験投入のプロセスで気をつけるポイントとなります。

本番移行時にエラーが起こらないように、すべてのデータパターンで取り込みできることを確認しておくことを推奨します。
なぜなら、SAPはデータパターンに応じて、画面の入力項目、必須項目などのカスタマイズが変わるからです。
例えば、試験投入で通常受注の取込テストしかしていなかった場合、移行リハーサルや本番移行時に返品受注を取り込もうとするとおそらくエラーが頻発します。
そうしたエラーを試験投入で潰しておかなければ、本番移行時の時間ロスに繋がります。

③移行リハーサルは可能な限り本番移行と同じ状況・状態で実施する(本番移行リスクの削減)

⑤移行リハーサルのプロセスで気をつけるポイントとなります。

試験投入でデータをエラー無く取り込めたからといって、それだけで本番移行がうまくいくとは限りません。
「現行システムと値がぴったり一致するか」、「予定されているシステム停止期間内で移行作業が収まるか」という観点での検証を行う必要があります。
このような観点で移行リハーサルを行わず最小限のデータボリュームで妥協してしまうと、本番移行時に現行システムと値が一致しなかったり、予定していた期間内に終わらないなど、本番稼働が延期となるリスクが高まります。

移行リハーサルは可能な限り本番移行と同じ状況・状態に近づけて実施します。
例えば、サーバのスペックを本番機と同じにしておかないと、移行リハーサルと本番移行で処理時間が変わるため、本番移行での作業完了時間を正確に見積もりできなくなります。
また、本番移行と同じ手順、体制、タイムスケジュールで移行リハーサルを実施することで、実現可能か確認します。

④業務調整で移行対象データを減らす(本番移行時間の削減)

⑥本番移行のプロセスで気をつけるポイントとなります。

いわゆる動くデータのうち、バランスデータは基本的に件数を減らせませんが、トランザクションデータは減らせます。
「トランザクションデータは移行しない」という選択ができるならそれがベストです。
「後追い入力するのはユーザーの負荷が高すぎるため、トランザクションデータはゼロにはできない」という場合でも、例えば発注が本番稼働の時点を跨がないように、移行開始前に多めに発注して在庫にしておくなど事前に対応しておくだけで、オープンの発注を減らすことができます。
このようにトランザクションデータはなるべくバランスデータにしておきます。

この施策には顧客の業務ユーザの協力が必要不可欠となります。
顧客のビジネスサイドに、仕入先や自社拠点と「今月はシステムの都合で多く発注します。多く入庫します。」という業務調整をして頂かなければなりません。
そのために、ビジネスサイドにデータ移行の重要性とリスク、失敗した場合のコストを理解して頂く必要があります。

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